日本では女子から男子にチョコレートを贈るのがまだ一般的なバレンタインデーだが、ここ香港では男子が本命女子に花やプレゼントを贈る。だから基本は義理チョコもないし、考えるのはただただ本命のことだけ。もちろん花束の値段は通常の倍くらいになることも珍しくないため、男子はそれなりに努力していると思う。
ただし今年みたいに特別な疫病が流行ったりすると、花束の代わりにマスクのプレゼントも有りだ。マスクは手に入らないし、普通に売ってるのはべらぼうに高い。花束に1000ドル(1万4千円くらい)とかかけるのなら、マスクの方がよっぽど欲しいというのも現実的だ。
かつて私が働いていたローカル系企業では、バレンタインにある女子社員に山のように花束が贈られてきた。その数20はくだらなかったと思う。花とワイン、花とぬいぐるみ、花とクッキーみたいな組み合わせが当時流行っていたため、我々もそのおこぼれにあずかることができた。彼女はマーケティング担当で25歳くらいだったか、ミス香港に出てきそうなくらい可愛く愛嬌がある子だった。私が香港で働いた一社目の時のことだから、ちょうど2000~2001年ころのこと。
そういう私も高校生の頃は友人宅で一緒にバレンタイン用のチョコを作っていた。板チョコを溶かして形を変える程度の簡単なものだったが、楽しんで作り義理にも本命にも同じように配った覚えがある。
その後何年かを経て偶然義理チョコを配った男子のアパートに泊まることになった。なぜ彼がいた姫路まで行ったのかはすっかり忘れてしまったが、彼は友人宅に泊まりに行ってくれ、私が彼の部屋を使わせてもらったのだ。そこで暗闇の中、なんだか見たことがあるような物体を発見した。それは正しく私が高三の時義理チョコとしてあげたチョコレートクッキーとその入れ物だった。え?なんでまだあんの?腐ってる?と思いながら、頭はグルグルと遠い記憶を追っていた。その当時私の本命は彼の友人だったはずで、だからついでに渡したんだった…
翌朝私を見送りに来てくれた彼の顔をまともに見れず、そそくさと姫路を後にしたことは言うまでもない。遠い遠い記憶。でもバレンタインで義理チョコを渡したりすると今でも思い出す。
そして今年は義理チョコを渡した相手に文句を言われた。これ高いチョコなのはわかりますけど、こんなフルーティーな甘くないチョコじゃなくて、思いっきり普通で甘いのが好きなんですと。
こんなに主張する人始めてだとプンプンしながら、でもチョコを渡したら誰にでも喜んでもらえるなんて方程式自体が間違ってる、だいたい渡すこと自体が自己満足以外何ものでもないわけで。だからその自己満足に意見を言われるであろう仮説を考えていなかったから私は怒ったり悲しくなったりしてるんだと考えると、なんだか笑えてきた。
前出の彼が私のチョコを姫路まで持っていってくれてたことも、今年義理チョコをあげた彼が好みじゃないと言ってきたことも、どちらも予定外。人間は想定外のことが起こるとうろたえ、どうしようと考えこむ。
そしてしっかり考えるから次があるし、成長するんだと思えた、今年のバレンタインデーだった。